インドネシアでの総選挙結果が示唆するもの

グローバル

インドネシアで9日、総選挙(一院制)が行われ、投開票が行われました。最大野党の闘争民主党(PDIP)が躍進し、第一党となる勢いだそうです。最大与党・民主党と連立を組む第二与党のゴルカル党も健闘している模様です。それに対し民主党は政権にある人たちの汚職問題などが響き、議席を大きく減らす見通しです。

今回の総選挙は7月の大統領選の前哨戦となると位置づけられており、2期10年の任期を終えるユドヨノ大統領が率いる民主党の凋落振りが目立ちます。PDIPは国民からの人気が高いジャカルタ特別州知事、ジョコ・ウィドド氏を「党の顔」として大統領候補に擁立、支持を広げているのです。ジョコ氏がジャカルタ州知事就任後に実施した、貧しい人向けの政策がそもそも彼の人気を生んだきっかけです。それで知名度が上がった彼には個人的人気が集まっています。既存与党の政治家と違い清廉な政治家とされ、その素朴な振舞いも好感を得ています。どこか見た目や政治行動が米国のオバマ大統領を彷彿とさせます。

そうした表面的なことより重大なことは、この総選挙が持つ意味です。民主党の長期政権がどうやら終焉を迎えようとしていること、そして貧しい庶民が選挙で自らの意思を表すことの効果を知ったことです。

従来、(他の発展途上国と同様)同国では選挙は概ねカネで買われ(選挙自体がお祭りみたいなもので、人々は政治家の演説ではなく歌手やTVタレントを見に政党のキャラバン会場に行くのですから)、特権階級の間の持ち回りでした。しかしインドネシア経済の発展に伴い、富裕層が分厚くなり、都市部を中心にかなりの中間層も育ってきました。一方、物価が上がったせいで、都市部の低所得層や地方の庶民の暮らしは以前よりむしろ苦しくなっているようです。皆が貧しいときには我慢できたのに、他の多くの庶民がよりよい生活をするようになったために、「取り残された」という不満を強く感じる人たちが増えているのです。

今回、その不満をもろにぶつけられた民主党の政治家たちは惨敗を喫することになりそうです。デモやクーデターではなく、選挙で庶民が政治体制をひっくり返すことができる実例となるのです。この「票の重み」は有権者も政治家も、ここまでとは予想していなかったのではないかと思えます。

多分、今回の総選挙で議会の構成が相当変わるでしょうし、7月の大統領選挙もジョコ氏が勝利する可能性が高いでしょう。そして彼らPDIPの政策は「格差是正」を旗印にすることで、見方によっては「人気取りのためのばら撒き」政策が増えるでしょう。そう、ちょうどタイのタクシン政権がやったように。インドネシアでもそうした政策が全国的に行われることに対し、既得権を持つ富裕層や都市部の中間層からの大いなる反発が生まれ、政治的対立が激化する可能性がかなり高いと考えられます。

ここで考えたいのは日本にとっての意味合いです。インドネシアに対し最近、日本をはじめとする先進国や中国・韓国から投資が急増した理由には、同国の人口の多さ(つまり消費者市場の大きさ)もありますが、それと同じくらい同国の政治的安定性が魅力でした。実際、小生がお手伝いした海外進出ケースでも、当初はベトナムだけのはずがインドネシアもターゲットに加わり、途中からはむしろメインになった経緯があります(注)。

しかしどうやらインドネシアの政治的安定は、当面は揺らぐ可能性が高いと見ておいたほうがよさそうです。でもこれは同国が民主主義の成熟化と経済発展を進める中で潜り抜けなければいけない「大人への儀式」なのだろうと小生は思います。

注)ちなみに、今のところ弊社・パスファインダーズが東南アジア進出で特別なサポート(パートナー探しなど)をできるのは、特殊人脈を持つタイ・台湾だけです。ベトナムのホーチミン市とインドの一部もありますが、インドは連邦国みたいなもので、全国統一策は意味ありません。それ以外の国では普通のコンサルサービス(市場調査、進出戦略策定、進出時支援など)を提供しています。