『スーパーレントゲン』は画像診断に新しい境地を開く

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小生のお気に入りの番組の一つ、「夢の扉+」。時間がなくて録画しっ放しのものをまとめて観た。8月4日の放送は「乳がんを一目で突き止める『スーパーレントゲン』100年続く技術に革命!見えない病気を早期発見、早期診断!」(…長い)。ドリームメーカーは東北大学の多元的物質科学研究所、百生敦教授だ。

日本人女性の14人に1人がかかり、年間1万2千人以上が亡くなる乳がん。早期発見できれば生存率は9割を超える。しかし現在検診に使われている「マンモグラフィ」というレントゲン撮影の画像では、乳腺とがんとの見分けが難しく診断が困難な場合が少なくない。こうした「やわらかい組織が写せない」という、100年続くレントゲン技術の弱点を打ち破り、乳がんを一目で発見できる『スーパーレントゲン』を開発したのが、東北大学の百生敦教授。その解像度は、最新のMRIのなんと約100倍だという。

百生氏が東京大学に合格した直後、入院していた父が亡くなり、大学から大学院にかけての学費と生活費を支えたのは、惣菜売り場で働く母親の月3万円の仕送りだった。人の役に立つことを自分の使命と思い定め、百生氏の挑戦が始まった。『先入観を捨て、誰もやっていないようなことをやる』。レントゲンでやわらかい組織の病巣を鮮明に写し出せたら、医学が飛躍的に進化するはず、と。休日も研究に没頭する日々。だが、結果は何年も出なかった。

しかし彼は、誰も目を向けなかったX線の“ある性質”に着目し、画期的な技術を生み出した。柔らかいものであっても、X線は透過する際にわずかに(角度は何と1/10000)屈折する。これを検出できれば、柔らかなものでも画像ができる、と百生氏は考えた。持てる時間の全てを注ぎ込み3年が過ぎた頃、遂にレントゲンの常識を超える画像が得られた。通常のレントゲンでは映らない、うさぎの肝臓がんの映像がくっきりと得られたのである。1996年のnature medicineに発表された彼の論文は世界に衝撃を与え、注目の的となった。

しかしまだ実用化までにはハードルがあり、彼の実験装置は日本武道館とほぼ同じ巨大な施設が必要だった。病院で使うためには大幅に小型化する必要がある。考え抜いて3年。規則的な模様をずらして重ねることで生じるモアレにより、目に見えないわずかな変化を強調する方法を応用した。X線のわずかな屈折を元の画像と重ねることでくっきりと強調できる。MRIよりダントツの鮮明さ。天才的な着想の勝利だ。

今、百瀬氏が目指すのは「関節リウマチ」の早期診断。軟骨が破壊され激痛を伴う病気だ。早期に発見できれば、薬で症状の悪化を防げる。『スーパーレントゲン』の画像は軟骨の微細な変化を的確に捉えた。経験の深い医者が皆驚く、鮮やかさだ。これまでにない画像診断が可能になる、本当に世の中に役立つ技術である。

最後に百瀬氏を励ました彼の母親の素朴な言葉「からだを大切にして、お父さんの分まで頑張って」が心に沁みた。