「踏み間違いゼロ」の魔法のペダルを普及させる道筋はあるか

ビジネスモデル

TSB「夢の扉+」(2012年12月9日放送)で、ブレーキとアクセルを踏み間違えて起きる自動車事故を防止する「魔法のペダル」が紹介されていた。
http://www.youtube.com/watch?v=EPuLqGzXVWM#t=34s

多くの人間はとっさの際に身体が突っ張ってしまい、アクセルに乗っていた足をつい踏み込んでしまう。それが、ブレーキとアクセルを踏み間違えて起きる事故につながるのである。誰もがそう冷静に、ブレーキに足を踏み替えることができる訳ではない。必ずしも老齢化による判断ミスではないのである。

その踏み間違えを無くすにはペダルを一つにしてしまえばいい、という発想から出たのがこのナルセペダルのコンセプト=「ワンペダル」である。踏むのはブレーキペダルだけで、アクセルペダルは踏むのではなくて横(右側)にスライドさせる。これで一つのペダルだけでクルマを操作できる。

開発者は熊本県玉名市の町工場、ナルセ機材の鳴瀬益幸社長。開発に取り組むことになったキッカケは、ご自身も(まだまだ働き盛りの年齢だった時に)誤ってブレーキペダルと間違ってアクセルペダルを踏んでしまい、危うい事態を経験した事だ。ご本人は発明家的開発技術者であり、人々の依頼で様々な製品を開発して喜ばれてきた。判断能力には自信があったはずなので、かなりショックを受けたと共に、世のためにこの問題を解決しようと思い立ったとのことだ。

ナルセのワンペダルは、アメリカでも注目されており、ニューヨーク・タイムズでも紹介されている。こちらの記事のほうがペダル構造は分かりやすいだろう。
http://www.nytimes.com/2010/08/04/business/global/04pedal.html?_r=2&ref=toyota_motor_corporation&

番組では幾つか小さなエピソードが紹介されていた。片足が不自由な方の電気自走車に装着した所、このペダルのお蔭で運転する事が楽しくなり、引きこもりがちだった方が元気に運転して外出する様になったというのが一つ。人材不足でドライバーの高齢化が問題になっているタクシー会社が検証の為、導入したというのがもう一つ。

構造から考えると、このペダルのほうが既存のものよりずっと安全性は高そうだ。鳴瀬社長は主な自動車メーカーにこのペダルの売り込みをしたそうだが、いまだこのナルセのワンペダルはメーカーに採用されるには至っていない。メーカー側に「アクセルとブレーキのペダルは既に完成された技術」という思い込みがあり、しかも既存技術で設計エンジニアから部品メーカーに至る「バリューチェーン」が出来上がっているためである。よほど社会的な圧力を掛けられない限り、この鉄壁のチェーンは崩れないかも知れない。

しかしながら事故被害者の団体などが政治家に圧力を掛けることで将来は変わるかも知れない。自動車メーカーが本当に「安全のための技術」を欲するのならば。