「空中農園」はもう夢物語ではない

ビジネスモデル

断熱材の製造販売のアトラス(株)が生産性5倍・生産原価6割削減の空中農園「自動植物生育器シーパス」の開発に成功、と発表したのがこの8月。その後、住宅会社向けに老後危機の対策として『空中農園併設住宅 2000万円やさいで稼ぐ家』を企画し、全国へ普及のため、勉強会やセミナーを実施しているとの話だ。

基本本体 1ユニット500万円(税別)と決して安くはないが、一軒家を持っており、家庭菜園を趣味にしてきたが、定年で暇を持て余しそうで、「家庭菜園」では物足りなく思っているご仁にはウケるかも知れない。なかなか面白い企画だ。
http://www.atolas.jp/info/2015/0805234745.html

その情報を頭の片隅に置きながら、先日録画をしておいた「BS世界のドキュメンタリー選」(NHK BS)の「“空中農園”が人類を救う!?」を観た。示唆は少なくない。

「植物工場」自体は(富士通の元半導体工場などで実現され)もう突飛な発想の代物ではなく現実の産業の一つになりつつある。しかしそれを縦に伸ばす(高層ビル化し、各階で野菜を栽培する)ことで、都会のど真ん中に農場を作る、という発想である。

「空中農園」の特徴は、土を使わず水耕栽培で野菜を育てること、コンピュータによって水と肥料を与える量とタイミングなどを高度に管理化されること、LED照明を使って雨天・曇天でも光を照射し作物を育てること。病害虫が入ってこないので無農薬の作物ができる、需要地である都市で生産するため、輸送にかかる費用・エネルギーを節約できるというのも大きなメリットである。

課題はエネルギーコストだ。LEDとはいえ照明と、水循環ポンプや野菜位置を動かすための電力が必要だ。高層ビルをガラス張りにすることで照明は節約できるが、ほかは省エネ型にしてもある程度必要だ。昼間に太陽光発電で蓄電して夜間はそれを使うことも可能だが、そうしたことをやるほど高額な設備投資になってしまう。ちょっと悩ましいところだ。

多分、米国やロシア・中央アジア。中東などのエネルギーコストが安い土地では十分可能性があるが、日本のように電力コストがバカ高い国では難しい。

とはいえ、これも一つのオプションだ。しかも都会にて高値で売れて温室栽培に向いた野菜ならば、十分可能性はある。どこかのブログで「穀物が採れない」とか「トマトばかりじゃないか」という批判を目にしたが、見当違いも甚だしい。

コメなどの穀物は都会ではなく田舎で生産し都会に輸送するので将来も構わない。数日から数週間掛ろうが誰も困らない。安く鉄道で運べばよい。しかし野菜の場合、収穫したその日に市場に並べることができるかどうかはクリティカルだ。このあたりはたまたま先週のガイアの夜明けでも東京産の野菜がウケる理由として挙がっていた。
http://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber3/preview_20151103.html

要は、全ての農産物を空中農園や植物工場で作ろうなどとは誰も考えていないし、この番組でも主張していない。都会の高層ビルで作るのに適している作物があるかも知れない、そうしたら誰かがそろそろ始めるかも知れないね、という話なのだ。

しかも冒頭に挙げた通り、都会にある家屋で『空中農園』をできるキットも、流通のための支援も用意されているとしたら、構想ビルではないが、『空中農園』は夢物語ではなくなるのではないか。