「使われないシステム」を生む典型的パターン

BPM

収益管理の仕組みを考える際には、「現場の負担」と「精度の確保」のバランスをどう取るかという問題に直面することが多い。そこをよく考えずに情報システムを構築することを自己目的化すると、「使われないシステム」を生みやすい。

収益管理や管理会計の仕組みを欲しがるのは経営者であり管理者である。その情報システムを造る際に悩ましいのは、そのための数値把握とデータ入力が現場にとって負担にしかならず、直接には有難味がないということである。

しかしながら、例えば顧客別または製品別に掛けている現場作業の工数をなるべく正確に把握しない限り、人件費の割り振りが恣意的なものになってしまう。これは工場であろうと倉庫であろうと、または営業現場であろうと同様だ。さらには間接費の配賦についても、本来なら作業工数に紐づけたいが、その工数が把握できないので生産高や在庫高に応じて配賦している、ということもよくある。それだけ真のコスト把握から遠ざかるということを意味している。

以下のケースは業種や背景事情は全く異なる2企業の事例だが、「やってはいけない」パターンを示唆しており、他山の石として、差し障りのない範囲でご紹介したい。

一つ目は大手のB2Bサービス企業。数年前に経営トップの「顧客別収支を日次で把握したい」という強い要望を受けて、大手SI企業に依頼して収益管理のシステムを構築した。しかし現場はぎりぎりの人数で回しているため、(本来の作業をこなす以外に)作業毎に顧客や取扱品についていちいちシステムに入力することなど非現実的だった。

そこでその企業の担当者がSI企業のSEに指示したのは、「その部分は考えなくてもいい。あとでまとめて事務屋が人件費を適当に振り分けて、直接入力できるようにしてくれ」ということだった。この判断の背景には、当時現場で使っていた業務支援用のシステムには、工数・人件費データを保持し他システムに渡す機能が無かったという事情もあったと思われる。

加えて悪いことに、間接費の配賦基準についても恣意的なものになったようだ。そのせいで収益管理のシステムに取り込まれるデータは信頼性の低いものになってしまった。結果として、出力される顧客別収支は別途手計算で綿密に検証した数字とは20~30%かい離するという事態が生じたそうである。いわゆる”Garbage in, garbage out”(ゴミデータを入れればゴミデータが吐き出される)の状態である。

その結果、折角構築した収益管理のシステムは使われないままである。代わりにホストコンピュータ等からの数字を使い、別途エクセルと手計算で顧客別収益管理を作成している。日次ではできないので、月次の経営会議に合わせて作業しているとのことだ。

もう一つはある中堅の工事会社。こちらは現場での業務支援(プロジェクトにおける工数見積や進捗管理など)のシステムを導入した際に、把握した工数を会計システムに転送する機能がついているものを選んだ。ところが導入時に現場に使い方を徹底させることなく、「各機能は使っても使わなくてもいい」という中途半端な導入の仕方をしてしまった(今となっては関係者が退職しており、背景事情は不明)。

そのために大半の現場では、工数見積や進捗管理には従来から使い慣れている、各自が作ったエクセル等をそのまま使い続け、この「業務支援」システムは全く使わないままに終わった。しかしそれだと売上計上がされないので、現場事務の人が最低限必要なデータを直接入力し、それが会計システムに取り込まれるようになっている。つまり会計システムへのデータ入力用に使われているに過ぎない。しかも全く生産性向上要素のない、随分高額な「入力システム」である。

一つ目のケースでは本来、顧客や作業者の簡便な識別法(例えばバーコード読み取りなど)を考え、しかもそれでミスを防止できる、といった現場にとってのメリットも生み出せばよかったのだろう。二つ目のケースでは、業務支援システムの導入時に、現場における業務を標準化し、このシステムを活用することでのメリットを十分認識してもらい、活用を義務づければよかったはずだ。

どちらもシステムを作ることだけが自己目的化し、本来の目的実現のための手間を惜しんだと云わざるを得ず、残念である。今、小生たちは、それぞれの事情に合わせて収益管理の仕組みを改善し機能させるよう、この2社に促そうとしている。