「丸亀製麺」の合理性が“常識破り”と捉えられる不可解

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4月25日(木)放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)は「急成長の秘密は“常識破り経営”にあり!」と題して、讃岐うどんチェーン「丸亀製麺」を採り上げていた。同チェーンを展開するトリドールの代表取締役社長、粟田貴也氏(この社長、実によく喋る)のユニークな経営哲学を紹介していて面白かった。

同社は他にも焼き鳥ファミリーダイニング「とりどーる」、焼きそば専門店「長田本庄軒」など、グループ全体で国内784店舗(4/25時点)を運営している。元々焼き鳥居酒屋チェーンだった(社名の由来は鳥人形らしい)というのはこの番組で初めて知った。トリドール全体での年間出店数は約120店舗(3日に1店!)という怒涛の攻勢。もちろんその多くは「丸亀製麺」だろう。売上はこの5年で3倍に成長。2012年度は売上高730億円、80億円の過去最高益を達成する見込みだという絶好調企業だ。

「丸亀製麺」は釜あげうどん一杯280円、サイドメニューなどと組み合わせても500円以下の“ワンコイン”の安さ、そしてコシのしっかりした麺が人気で、急成長している。この番組ではその秘密を「非常識な非効率経営にあり」と謳っているが、小生に言わせれば全くの誤解。同社は非常に合理的であり、その合理性の範囲で十分効率的なのだと思う。

番組の指摘する「非効率」は、飲食チェーンの“常識”、セントラル・キッチン方式でないこと。全ての店舗に製麺機が置かれ、各店で粉から麺を毎朝作っている。ダシも店内で昆布やカツオブシなどを使ってイチからとる。サイドメニューの天ぷらやかき揚げも、生野菜を切るところから始まる。おにぎりも機械ではなく店員が手で握る。だから丸亀では開店1時間半前には、仕込みが始まる。その分、店員も多い。

しかし粟田社長が説明したように、店でやるからこそ美味しさを実現でき、演出すらできる。うどんをセントラル・キッチン方式で製麺したらどうなるか。寝かせなければいけない時間帯に輸送することになり、温度・湿度管理は狂い、「丸亀製麺」のウリである麺の出来にばらつきが生じかねない。ダシも作りたてで提供するからこそ、香りと品質を担保できる。生野菜をセントラル・キッチンで切って各店に配送したりしては乾燥してしまう。ましてや天ぷらやかき揚げを揚げるのを店でやらなければ、ベチョベチョに湿気てしまう。

セントラル・キッチン方式でなくとも同チェーンは十分効率的だ。なんといっても大量の店舗展開と人気のお陰で、食材などの仕入れは圧倒的に割安にできる。店舗設計も標準化し、建材や設備の調達も割安なはず。メニュー自体は極端に少なくはないが、うどんとトッピングの組み合わせに過ぎず、それにサイドメニューを加えるという構成は変わらないので、オペレーションは実にシンプルだ。しかもセルフ方式なので、配膳や片付けに人手はほとんど要らない。これを効率的でないという番組プロデューサーの目はどうかしていると思う。

むしろ感心したのは、「丸亀製麺」のシニア活用術と独自のパート活用戦略である。中高年の従業員・パートが大半で、その分だけお客に対する声掛けや気配りが自然とできる。うどんという食材にマッチした、柔らかい雰囲気が店舗に作られているようだ。そして全国に1万6千人いるパート従業員のやる気を引き出すため、パートを店長に抜擢する制度を去年からスタート、今後5年で全店長をパートに切り替える方針だという。

でも肝心な店舗での温かい雰囲気を支えるのは、シニアを中心とする(パートを含む)従業員の「ここで働くのは楽しい」という気持ちだろう。若者を限界まで競争させるためにブラック化した某大手小売企業とは全く違う、サービス企業のあるべき姿だ。「丸亀製麺」の経営はユニークかも知れないが、非常に合理的である。これが“常識破り”と捉えられるのは、それだけ世間の目が、効率一辺倒や業界の常識に目を奪われて本質を見失ってしまったからではないか。