「ここにしかない」商品にこだわる成城石井

ビジネスモデル

最近、少しだが簡単な料理もするようになって、以前よりスーパーでの買い物の視点が変わってきたことを意識している。以前は正直なところ、効率と目玉商品の取扱いや陳列法など、経営視点しかなかった。それが最近は利用者視点で品揃えや買い物の楽しみを少しだが分かるようになってきたのだ。

そうした、買い物を楽しみたい客に支持されて伸びているのが成城石井だ。11月26日にTV東京のカンブリア宮殿で放送されたのが「“こだわり”で客を魅了するスーパー『成城石井』人気の秘密」だった。

首都圏を中心に132店舗を展開する「成城石井」の人気の秘密は「ここにしかない、こだわりの商品」があること。例えば輸入物のワインは全700種類、チーズだけでも210種類。扱う商品数は1万2千種類。確かに多い。

腕利きバイヤーたちが国内外から見つけてくる独自の品揃えが、客を捉えて離さない。そんな個性派スーパーを率いるのが原昭彦社長、48歳。意外と若い。「売れ筋は追わない。データには出てこない客の生の声が最も大事だ」と語る。

「ここにしかない」商品にこだわることが成城石井の存在意義だ。店内には、他店ではお目にかかれない商品の数々が並ぶ。海外からの直輸入商品を始め、国内で見つけてきた逸品も大人気だ。そして、ポテトサラダなどの惣菜は、自社のセントラルキッチンで保存料、合成着色料などをほとんど使わず手作りで製造されている。

しかも、売れ筋商品だけ店頭に置く訳ではない。毎月数個しか売れない商品でも、買いにくる客がいる限り置くのが成城石井流だ。

こだわりの商品を見つけてくるバイヤーは22人。彼らの日課は、客の問い合わせリスト(ウェブや投書箱へのポスティング)に目を通すこと。売れ筋データではなく、客の生の声からニーズのある商品をいち早く見つけるのだ。

そして、これというものが見つかれば国内外問わず、すぐに現地に飛んで交渉するのが成城石井流。また貿易会社を子会社に持つため、海外からの調達も自由自在。これが「成城石井に行けば、きっと何かある」というお客の期待に繋がっている。番組ではその調達の現場を密着取材しており、面白かった。

創業は1927年。創業者・石井隆吉が、果物や缶詰を扱う食料品店として東京・成城にオープンしたのが始まりだ。2代目の石井良明が1976年、食料品店からスーパーマーケットの業態に変えた。これが飛躍のきっかけだったようだ。

そしてまだ2店舗しかなかった時代に原は入社する。バイヤーなどを経験し、現場を一から学んでいった原にとっても成城石井にとっても転機となったのが1997年、恵比寿駅に初の「駅ナカ」店を出す。

それまでは大型の路面店のみだったが、駅ナカの店舗はわずか45坪という狭さ。責任者となった原は、従来店舗で売れている卵や牛乳などの生鮮品を品揃えした。さらに、駅ナカは若い客がたくさんいるからと、ショーケースにアイスを並べた。しかし、見事に大失敗。駅を利用する客は、手軽に持ち帰られるサイズのものや、そのまま電車に乗ってもいいような商品を好んだのだ。

この経験から、立地や客層によってこだわる商品と捨てる商品を決め、狭い店舗でも繁盛する独自のノウハウを確立したという。今では店舗の6割が駅ナカの小さな店舗。そして10月にはわずか10坪という極小店舗を開店。190坪から10坪までと変幻自在の店舗フォーマットだが、これが同社流なのだ。

そして(これは知らなかったが)成城石井はスーパーだけではなく、卸部門を持っている。現在、全国、北海道から九州、沖縄まで、47都道府県すべてのスーパーや百貨店、ホテルなどに自社商品を卸しているのだ。地元のスーパーが成城石井の商品を仕入れ、やはりここでしか買えないこだわり商品は人気らしい。これも成城石井なのだ。

実は成城石井には、ファンドが買収して経営を立て直した経緯があり、番組がいうほど綺麗事だけではない経験をしている。そしてその経営立て直しに、小生の旧い知人が指揮を執ったのだ。彼の名前は今回の放映には全く出てこなかったが、その功績は小さくないはずである。所詮、我々は黒子なので、こうした扱いに彼も不満を漏らすことはないだろうが、小生はその功績を知っている。